「〇〇さん待ち」をなくす――クラスメソッドが特許取得したデジタルツインAI「ghoost」で解く、組織の見えないコスト
クラスメソッド株式会社

クラスメソッド株式会社 業務支援グループ ビジネスコンサルティング部 部長 金子 傑 氏(画像左) データ事業本部 サービスソリューション部 サービス企画チーム 舘野 勉 氏(画像右)
「その人の知識・実績・判断のあり方を蒸留する」――つまり、特定の社員の頭の中にしかなかった意思決定を、組織の誰もがいつでも引き出せる形にする。AWS生成AIコンピテンシーを取得し、Anthropicとも提携してAI事業を加速させるクラスメソッドでAI関連サービスを率いる舘野 勉氏は、自社が手がける新サービスの本質をこう語る。「意思決定時間の大半は非効率に費やされている」「コミュニケーションと知識共有の改善で生産性は2割以上伸びる余地がある」――マッキンゼーが繰り返し指摘してきたこの「見えないコスト」に、同社は正面から挑む。
同社が2026年5月15日にリリースした、特許取得済みのデジタルツインAI「ghoost」は、本人を模したAIを組織内で24時間365日稼働させ、「〇〇さん待ち」「会議待ち」を構造的に解消するサービスだ。作業の自動化ではなく、人の判断そのものを組織で並列化する――主担当の舘野氏と、6月のAI要件定義サミットに登壇するビジネスコンサルティング部長の金子 傑氏に、ghoostが描く組織の未来像を聞いた。
「〇〇さん待ち」を構造から消す。ghoostが選んだアプローチ
ある特定の人にしか答えられない案件で、その人が別の会議に入っているために他のすべてが止まる――多くの組織で日常化したこの現象は、誰かの怠慢ではなく構造の問題だ。生成AIの普及は、この問題に複数のアプローチで対処しつつある。文書要約、議事録自動化、メール下書き、コード生成――いずれも個別作業の時短に向けたツールである。
ghoostが狙うのはその先だ。狙うのは作業ではなく、組織のコミュニケーションそのもの。「我々がやりたいのは、チームや社内コミュニケーションの並列性をつくること」と舘野氏は言う。
ghoostは1〜2時間のAIインタビューで本人の思考パターンを構造化し、デジタルツインを生成する。一度作られたghoostは静的なFAQではなく、Google Workspaceなどと自動同期して、本人の業務やメールから知識を取り込み続ける。利用者はチャットでghoostに話しかけるだけで、本人が他の打ち合わせに出ていても、その思考に基づいた回答を得られる。
この狙いの裏には、組織の意思決定や情報共有に潜む見えにくいコストがある。マッキンゼーの調査では、回答者の平均61%が「意思決定に使う時間の大半が非効率」と答え、フォーチュン500企業を想定した試算ではマネージャーの意思決定時間の58%が非効率に使われているという結果が示された。同社のグローバル研究機関マッキンゼー・グローバル・インスティテュートも、コミュニケーション、知識共有、コラボレーションの改善によって知識労働者の生産性を20〜25%高める余地があると指摘している。「待ち」は個社の問題ではない。国全体の競争力に関わる構造的ボトルネックである――この前提から、ghoostは設計された。
この設計を支えるのは、クラスメソッドが積み上げてきたAI領域での実装基盤だ。生成AI領域で40社以上の導入支援を手がけ、2025年6月にはAWS生成AIコンピテンシーを取得。2026年3月にはAnthropic製モデルのAmazon Bedrock向けリセラーにもなった。組織のコミュニケーションを並列化するという挑戦には、AI技術と業務伴走の両輪がいる。

「ghoostの裏には小さなghoostがいる」――特許で守る並列化の設計
もっとも、組織内に「本人を模したAI」を置くという発想自体は、ghoostだけのものではない。大手食品メーカーが自社開発した社内向けサービスや、財閥系企業が内製しているもの、ゲーム大手が外販するプロダクトなど、同じ着想のサービスは複数存在する。
ghoostには他と異なる特徴が3つある。デジタルツインの生成手法に関する特許を取得済みであること、複数のghoostを同時に呼び出すグループ会話が成立すること、自動同期で「常に最新化」される運用設計を持つこと――いずれも、デジタルツインを単発のAI再現に終わらせない仕組みだ。
ghoostの内部は単一のAIモデルではない。舘野氏はこう説明する。「ghoostの裏には小さなghoostがたくさんいる。役職や部門、部下としての立場など、いろんな顔があるからだ」。一人の人間が場面によって異なる判断軸を使い分けることを、複数の小型ghoostへの問い合わせとして実装した。グループでの並列化が成立するのもこの設計ゆえだ。「経営陣の社長・専務・常務、3人とのミーティングをghoostで再現できる」(舘野氏)。これまで関係者を物理的に集めなければ得られなかった複数の見解を、好きなタイミングで並列に取得できるようになる。
精度を支えているのは、本人によるフィードバックを織り込んだ仕組みだ。ghoostが返した回答はすべて本人に通知され、修正できる。最初の導入企業で承認率は92%を超えた。本人が「自分ならこう答える」という答えと合致した割合だ。
料金は月額100万円、20人までghoost作成可(追加は月5,000円/名)、利用者は無制限・無料。メインターゲットは「待ち」が日常化した中堅以上の組織だが、社長一人を対象に5名規模で導入する例もある。
効果は2つの層で測る設計だ。第1階層は「〇〇さん待ち」が消えるコミュニケーション改善効果、第2階層は解放された時間を戦略業務に再投資する「再生産効果」だ。3カ月の本格稼働までは伴走支援が組み込まれ、KPI設定、月次効果測定、四半期の拡大計画までが標準に含まれる。舘野氏は伴走の意義をこう説明する。「AIを使って楽になっただけで終わられては経営は大変だ。空いた時間を何に投資するかまで含めて伴走できるのが、我々の強みだ」
ロードマップはさらに広がる。将来的には特定時点のghoostを保存して呼び出せる「年代別ghoost」、複数のghoostを掛け合わせる「合成」も視野にある。「ガチャやカードゲームの世界」と舘野氏は語る。製法特許は、こうした発展系まで含めて取得されている。

AIを突き詰めるほど、アナログが残る――会議消滅の先にある組織の姿
ghoostは現在チャットベースだが、エージェントへの進化も視野に入っている。MCP(Model Context Protocol)を使った各種スキル連携も技術的には可能だ。
会社単位のghoostも構想されている。「会社で求められる動き方・働き方が事前にセットされ、新入社員が初日でオンボーディングされる世界はできるはずだ」(舘野氏)。集合知としてのモデル社員――ghoostが描く射程は、個人を超えて組織文化のレイヤーに及ぶ。
AI化が進むほど浮かび上がるのは、別の論点だ。「AIで取って代われない部分がある。AIを突き詰めれば突き詰めるほど、アナログが残る」と舘野氏は言う。クラスメソッドでは営業に「人に会え」「商談を重ねろ」と伝える。金子氏の観察も重なる。「話す内容まで、ある意味AIが指示してくれる時代になる。接客する店員に最も必要なのは、結局は人間性そのものになる」
効率化したはずが、むしろ忙しくなる。金子氏はこう語る。「これまで3時間かかった資料が1時間で済む。結果として3倍仕事をしてしまう感覚だ」。テックサイドでは「コーディングが早くなり、従来の時間軸と単価軸が効かなくなる」(舘野氏)と単価崩れの懸念も出始めた。空いた時間を何に投資するかの設計なしに、AIの恩恵は組織に蓄積しない。
知識量で差がつく時代は終わりかけている。1週間かかったリサーチが5分で済むからだ。残るのは知識を使うノウハウ、共感を生む力、人間性そのもの。AIが効率化した時間を組織として何に投資するか。ghoostが置く問いは、ツール導入では完結しない。

「AI活用が目的になっていないか」――金子氏が投げかける問い
6月11日のAI要件定義サミットで登壇する金子氏のテーマは、ツール紹介ではない。「AI活用が目的になってないか?」これが、一番投げかけたいところだと話す。
「トップがAI活用しろと言ったから」という起点で来る相談が、いまだに少なくない。「対顧客なら体験価値、対業務改善なら生産性。所詮AIはツール。手前の顧客体験設計や業務設計が一番重要で、ツールは放っておいてもついてくる」(金子氏)
金子氏が率いるビジネスコンサルティング部は、2026年3月2日から「AI適用診断サービス」を提供している。同サービスは、対象業務をタスク単位に分解し、独自の「AI活用マトリクス」と「AI活用スコアリング」によって、ビジネスインパクトと実現可能性の両面からAI適用候補を評価するものだ。最終的には導入計画まで落とし込む――AIに何をやらせるかを決める前に、何のためにAIを使うのかから問い直すサービスだ。クラスメソッドはghoostのようなツール提供から、その上流に位置する業務設計まで、一気通貫で支援する体制を整えてきた。
ghoostもまた、同じ思想の延長線上にある。並列化で生まれる時間を、より付加価値の高い仕事に再投資する設計だ。舘野氏は同社のメッセージをこう要約する。「AIは使って当たり前、使いこなせて当たり前。ただ、人間はだからこそ、人にしかできないところに注力してほしい」
