2026.06.11 THU13:00 - 18:00
AI要件定義サミット 2026
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「購買は"AIとの対話"で完結する時代へ」――DGビジネステクノロジーが描くエージェンティックコマースの全貌

株式会社DGビジネステクノロジー

「購買は"AIとの対話"で完結する時代へ」――DGビジネステクノロジーが描くエージェンティックコマースの全貌

株式会社DGビジネステクノロジー 事業開発本部 本部長 松﨑 保英 氏(画像左) 事業開発部 部長 松田 孝宏 氏(画像右)

消費者がECサイトを訪れることなく、AIエージェントとの対話だけで商品選定から購入までを完結する――「エージェンティックコマース」と呼ばれるこの潮流に、EC業界の関心が集まっている。デジタルガレージ傘下でEC事業者の全方位支援を手がけるDGビジネステクノロジーの松﨑 保英 事業開発本部長は、その到来を見据え、データ基盤からAI検索対応、エージェント決済まで一貫した備えを進めてきた。コマースの未来像と、それに対応するシステムをどう設計するか――松﨑氏の構想を聞いた。

3社統合で「全方位」へ――DGビジネステクノロジーが見据えるコマースの転換点

DGビジネステクノロジーは、デジタルガレージグループでコマース領域を担う事業会社である。ECサイト構築を手がけるDGコマース、CX改善のナビプラス、不正検知のスクデットという3社が2025年4月に経営統合して生まれた。EC戦略からシステム構築・開発、マーケティング、セキュリティ、AI・データ活用、EC運用の実務まで、事業者を全方位で支える体制を敷く。グループ全体でEC構築実績は1,100件超、決済取扱高は7.5兆円にのぼる。

松﨑氏が、この体制の先に見据えているのがエージェンティックコマースの波だ。

消費者の購買行動が変わりつつある。検索エンジンからSNSへ、そしてAIチャットへと、情報との接点そのものがシフトしている。AIエージェントが商品を探し、比較し、購入まで代行する。 そうした未来が、業界では「エージェンティックコマース」として語られ始めている。松﨑氏の目には、この変化はもはや「いつか」の話ではなく、時間の問題として映っている。

コマースの形が変わるなら、それを支える基盤ごと変わらなければならない。DGビジネステクノロジーはDG AI Driveというブランドのもと、広告運用、ビジュアル制作、業務効率化、検索最適化、データ活用といった各領域にAIソリューションを展開してきた。複数のAIツールを統合管理するサービスも準備を進めている。

「大手プラットフォーマーの汎用サービスがある一方で、特化型のAIを使いこなしていかなければならない」と松﨑氏は語る。汎用的なAIサービスだけでは、業種ごとの複雑なオペレーションには対応しきれない。EC事業者が自社の強みを活かすには、業務に即したAIの活用が欠かせないという考えだ。

インタビューに答える松﨑氏

AI Visibilityからエージェント決済まで――「AIに選ばれるEC」の設計図

松﨑氏が語る危機感を、具体的な取り組みに落とし込んでいるのが同社事業開発部 部長の松田 孝宏氏だ。松田氏はエージェンティックコマースの全体像を5つの構成要素からなるフライホイールモデルとして整理する。

起点は「AIフレンドリーなデータ基盤」だ。商品データを構造化し、リッチ化し、AIが読み取れる形で発信する。 松田氏はこれを「すべての成果を左右する起点」と位置づける。ここが整わなければ、その先の施策は機能しない。

データ基盤の上で、今すぐ着手すべきなのが「AI Visibility(AI可視性)」だ。ChatGPTやAIアシスタントに「おすすめの商品は?」と聞いたとき、自社の商品がAIの回答に表示されるかどうか。従来のSEOが検索エンジンに向けた最適化だったように、AIに「見つけてもらう」ための最適化が求められている。

中期的な備えとなるのが、Googleが提唱するUCP(Universal Checkout Protocol)やOpenAIが推進するACP(Agent Commerce Protocol)への対応だ。いずれも、AIエージェントが外部サービスと連携し、対話の中で購入処理まで完結させるための仕組みである。これらに対応すると、消費者はAIエージェントとの対話の中で商品を選び、購入まで完結できるようになる。ECサイトに訪問せず買い物が終わる世界だ。米国ではすでにこの動きが活発化しており、DGビジネステクノロジーでも決済を組み込む「エージェンティックペイメント」を視野に入れている。デジタルガレージグループが決済代行事業を持ち、ペイメント基盤を自社で押さえている点は、ここで効いてくる。

EC運用そのものをAIエージェントで変える構想も含まれる。受注処理やキャンセル対応といった日常業務をエージェントが担い、事業者は戦略的な判断に集中できる。

こうした構想を、DGビジネステクノロジーは自社でも検証してきた。「AI Visibilityはもう来ている」――この実感は、グループ内企業の取り組みから得たものだ。コンテンツの充実度には自信があったが、GEO(生成エンジン最適化)の観点でAIの引用状況を分析すると、他社との差別化は十分にできておらず、引用率は想定を大きく下回っていた。「コンテンツを作っていれば大丈夫という感覚は、もう通用しない」――その気づきを起点に、GEOサービスの提供を開始している。支援先の事業者とは、データ集約から生成出力の評価、効果測定まで一連のプロセスの実証にも取り組んでおり、そこで得るノウハウをサービスに還元していく。

では、EC事業者は、何から動き出せばいいのか。まず行うべきは、現状把握だ。自社の商品や情報がAIにどう認識されているかを測定した上で、商品データの構造化やフィード整備といった基礎対応から始め、ブランドとして引用されるためのコンテンツ強化を並行して進める。そしてAI Visibilityの測定サイクルを繰り返し回し続けることが重要だという。「この1〜2年でその基盤を作り切れれば、エージェンティックコマースの波が来たとき、乗り遅れない」と松田氏は言う。

その道筋を、コマースビジネスの上流から下流まで理解した立場で支援できることが、DGビジネステクノロジーの強みだ。GEOサービスの提供にとどまらず、EC戦略の立案から要件定義、システム構築、データ活用、決済まで――コマース領域を一気通貫で手がける知見を持つからこそ、「AIに選ばれるEC」への移行を、事業者の目線で実装レベルまで伴走できる。

エージェンティックコマースの構想を語る松﨑氏

124の職種エージェントが「チーム」になる――未来のECを支えるDG AI Drive

エージェンティックコマースに備えるには、消費者に向き合うフロントだけでなく、事業者側の業務プロセスそのものもAI前提に変えていく必要がある。DGビジネステクノロジーがDG AI Driveで展開する業務変革AIは、その基盤にあたる。

中核をなすのが、業種・業務に特化した約124種類のAIエージェント群だ。デザイナー、ブランドマネージャー、コピーライター、経営コンサルタント――それぞれの職種の役割があらかじめプリセットされている。DGビジネステクノロジーがこだわったのは、エージェントごとの「色づけ」だ。松﨑氏はこう説明する。「デザイナーといっても『どこの?』、ブランドマネージャーといっても『何に強いの?』となる。一般論ではなく、業種・業界に合わせた知見を持たせている」。裏側のAIエンジンは用途に応じて選択でき、複数のエージェントをチームとして組み合わせて動かす設計だ。

実際の運用事例がある。大手アパレルブランドA社では、1名のディレクターと22体の特化型AIエージェントで新規ブランドの事業開発を進めた。戦略系、クリエイティブ系、市場分析系のエージェントがそれぞれの役割を担う。AIエージェント同士の「仮想会議」で施策の弱点をあぶり出し、複数のペルソナAI同士に会話をさせて購買動機を抽出する。従来なら10〜20名の専門職が必要だった体制を、1名とAIで回した。

この仕組みを昇華させ、顧客企業が自社で使えるエージェントとしての提供も始まっている。ペルソナを設定すれば、商品コンセプトの策定からクリエイティブ制作、広告展開まで一気通貫で動かせる。

エージェンティックコマースが消費者との接点を変え、DG AI Driveが事業者の業務変革を支える。では、その両方を支えるシステムの設計――要件定義の領域はどうなるのか。

要件定義について語る松田氏

「要件定義は人対人の領域が残り続ける」――AI要件定義サミットで語ること

松田氏はこの問いに対して迷いがない。AIがコマースの前線を変え、業務の多くを代替しても、要件定義は人間の手に残る。

DGビジネステクノロジーはROUTE06が開発するAI要件定義「Acsim」をEC構築の現場で実際に使っており、その使い勝手の良さから自身がAcsimの販売代理店も担っている。提案段階では業務フローの可視化に、開発段階ではプロトタイプの作成や現行業務の整理に活用する。IT部門の中でも要件整理をミッションとする企画系の担当者からは「まさにこれだ」という反応があるという。

ただ、松田氏が強調するのはAIの限界についてだ。「これだけAIがいろいろできるようになっても、要件定義はどこまでいっても人対人の領域が残り続ける」。相手も人間である以上、AIが出した成果物をそのまま持っていくだけでは信頼は得られない。AIはあくまで支援。最終的な判断と対話は人が担う――Acsimに共感した理由もそこにあると松田氏は語る。

6月11日に開催されるAI要件定義サミット2026で、DGビジネステクノロジーはこの実感を伝える。AIで業務の大半が変わる時代に、変わらない核をどう守るか。エージェンティックコマースの未来を描く同社が、その問いに向き合う。

松﨑氏と松田氏