2026.06.11 THU13:00 - 18:00
AI要件定義サミット 2026
Interview 一覧に戻る

「人間が関わる場所が常にボトルネックになる」――Kikuviが仕掛ける"聞く"の自動化が要件定義を変える

株式会社Kikuvi

「人間が関わる場所が常にボトルネックになる」――Kikuviが仕掛ける"聞く"の自動化が要件定義を変える

株式会社Kikuvi Founder CEO 佐藤 拳斗 氏

世界有数のバイアウトファンド、ベインキャピタルでAI・DXによる経営改革に携わってきた佐藤 拳斗氏が、自らゼロイチで立ち上げたのがAIヒアリングエージェント「Kikuvi」である。AIが「聞く」という行為を代替し、要件定義や人事、顧客調査といったドライなヒアリングを高速かつ全量で回収する。「時間は唯一無二の資源だ」と語る佐藤氏は、構想からわずか半年でプロダクトを公開し、大手企業への導入を進めている。AIが変えるヒアリングの未来像を聞いた。

「時間は唯一無二の資源」――ベインキャピタルを辞めた男が選んだゼロイチ

佐藤氏の経歴は異色である。米国の大学で宇宙物理学や惑星形成理論の研究に従事した後、日本に帰国してデロイト トーマツ コンサルティングに入社。AI研究所「Deloitte AI Institute」の立ち上げに携わった。その後、AutoMLやMLOpsという言葉自体を生み出した米国スタートアップのDataRobotでリードを務め、約100社のAI活用・DXを推進。さらにプライベートエクイティファンドのベインキャピタルに移り、Large Cap(数千億円から数兆円規模)のバイアウトファンドで、経営改革担当者の1人としてAIやDXを活用したバリューアップに携わった。

2025年1月、佐藤氏はベインキャピタルを離れることを決める。次の行き先は決めていなかった。「ベインキャピタルでやっていた仕事以上に面白いことは、雇われという身では絶対にない」。米大手AI企業のGTMヘッドやグローバル金融企業のアジアデータサイエンスヘッドといった提示もあったが、2週間ほどで見切りをつけた。再び誰かの下につく理由はなかった。

自分のアイデア帳から1つ目のテーマに取りかかり、2〜3週間でMVPを作って断念。データベースが複雑すぎた。2つ目のテーマがKikuviだった。2月後半に構想を固め、半月でMVPを構築。4月から本番環境のコードを書き始め、7月末に公開している。辞めると決めてからプロダクトリリースまで約半年。 この速度感自体が、佐藤氏の思想を体現している。

「時間は唯一無二で不可逆な資源。人・モノ・金・情報は増えたり減ったりするが、時間だけは減っていく一方だ」。Kikuviのミッション・ビジョン・バリューの根底にあるのは、この時間に対する執着である。人間は意外と不要な仕事を山ほどやっている。自ら仕事を作り出してもいる。AIや機械に任せられるものは任せ、人間は人間にしかできないことに時間を使う――その信念が、「聞く」という行為の自動化に結実した。

インタビューに答える佐藤氏

ドライなヒアリングを全量取る――Kikuviが解くキーマンインタビューの限界

Kikuviが代替するのは、ヒアリングのすべてではない。佐藤氏はヒアリングを「ウェット」と「ドライ」の2つに分けて考える。ウェットなヒアリングとは、コンテキストや表情、伝え方が重要な対話であり、人間関係の構築や信頼の醸成を伴う。一方のドライなヒアリングは、ファクトやプロセス、課題といった事実情報を取りに行く行為だ。「ドライなヒアリングは、上司がやろうがコンサルタントがやろうがアルバイトがやろうが、ちゃんと取れれば変わらない。早く、高速に、安くが何よりも重要だ」

要件定義の現場では、この「ドライなヒアリング」が構造的に不足している。SIerもコンサルタントもタイムチャージで動く以上、キーマンにしかインタビューしない。すると現場の担当者が後から「こういう要件も必要だ」と言い出し、手戻りが発生する。「要件漏れでプロジェクトが伸びるのは鉄板中の鉄板のあるあるだ」と佐藤氏は言い切る。全員に聞いている暇がないから抜け漏れが起きる。人間がやる限り、この構造は変わらない。

Kikuviの利用は、ヒアリングの設計、回答、可視化の3ステップで進む。管理者がAIに目的や背景を教えて質問の方向性を定め、対象者がチャット形式で音声またはテキストで回答し、結果がQA表やサマリーとして自動生成される。iOSアプリにも対応しており、場所を選ばない。

従来のアンケートと異なるのは、回答内容に応じてAIが自動的に深掘りの質問を重ねる点だ。定量的な質問で分布を取りつつ、定性のコメントに対しては「その背景は何か」と踏み込んでいく。20人にヒアリングすれば、20人分をまとめた横断レポートも出力される。

競合のAIヒアリング製品がアバターを使う中、Kikuviは敢えてそれを採用していない。「アバターは愚の骨頂だ。不気味の谷を超えられていないアバターと話したい人は誰もいない」。実際、大手の生成AIサービスや音声AI企業もアバターは採用していない。加えて、人間は質問文を読み上げられるのを最後まで聞かないという実態がある。「読む方が圧倒的に早いので、読み上げている途中で回答し始める」。音声読み上げのレイテンシーがむしろロスになると判断し、現在は読み上げ機能を外している。ローンチ当初は搭載していたが、「無駄だねとなった」という。

Kikuviの技術について語る佐藤氏

残り時間で質問を変える――基盤モデルでは代替できないアルゴリズムの壁

Kikuviと同じことは汎用の基盤モデルでも早晩できるようになるのではないか。この問いに対して、佐藤氏は「類似のことはできる」と率直に認めつつ、こう続ける。「LLMは人間が出した問いに対してどう答えるかを最適化するモデルだ。ヒアリングはその逆で、AIが問いを出して人間が答える。何の回答が来るか分からない中で問いを最適化する問題になる」

正解のラベルがない状態での問題設計。ここにKikuvi固有の技術がある。たとえば人間のインタビュアーなら、残り時間が30分あるか5分しかないかで質問の優先度を変える。現在のAIにはこの判断ができない。Kikuviは残り時間を加味した質問生成のアルゴリズムを開発し、特許として出願している。

ただし佐藤氏は、要件定義のすべてをAIに任せることには反対の立場だ。「最後の意思決定とコミットは人間がやらないと組織は動かない」。ガンの検知を外せば人が死ぬ、金融の不正検知も同様――責任の重さに応じて、人間が判断すべき領域は残る。一方で「人間だからといって完璧な判断ができるわけではない。確率の話だ。AIの精度が人間を超えたところから自動化していけばいい」とも語る。だからこそ、まず自動化すべきはドライなヒアリングの領域だ。

開発の現場にも同じ構造がある。「開発は人間がヒアリングして、実装をAIで自動化してきた。次のフェーズは要件定義で、その次にボトルネックになるのはヒアリングだ。人間が介在する場所が常にボトルネックになり続ける」。実装のAI化が進むほど、上流の人的プロセスが律速になる。その解がヒアリングの自動化である。

さらにその先には、「聞く」こと自体が不要になる世界も見据えている。「聞くという行為は、ない情報を獲得する手段の1つでしかない。聞かなくて済むならそれでいい」。過去の回答データをベースに事前予測する仕組みも、Kikuviのプロダクトとしてカバーしていく構想だという。

佐藤 拳斗 氏

「今の業務プロセスの前提を忘れてほしい」――AI要件定義サミットで問いかける理想のToBe像

6月11日のAI要件定義サミットで、佐藤氏が聴衆に持ち帰ってほしいのは1つの問いである。「今の業務プロセスの前提を一度忘れてほしい。今の業務プロセスは、人間が行うことを前提に最適化されている。一度立ち返って、理想的なToBe像を描くべきだ」

Kikuviはローンチから半年で、製造業、生命保険、不動産、広告、官公庁など幅広い業種の大手企業に導入が進んでいる。人事系のヒアリング、業務改善の棚卸し、顧客リサーチ――用途はさまざまだが、共通しているのは「ドライなヒアリング」が業種を問わず膨大に存在するという事実である。「回答しているうちに自分の頭が整理されたという声がある。それがAIでも一定できるんだということが分かった」と佐藤氏は手応えを語る。

「この1年で時代は変わってきている。チャレンジしないでどうする」。佐藤氏の言葉は、要件定義の自動化に踏み出すかどうか迷う企業への率直なメッセージでもある。