2026.06.11 THU13:00 - 18:00
AI要件定義サミット 2026
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「人間が業務をやる前提」を疑え――ワークスアプリケーションズが描く、AI主導のバックオフィス

株式会社ワークスアプリケーションズ

「人間が業務をやる前提」を疑え――ワークスアプリケーションズが描く、AI主導のバックオフィス

株式会社ワークスアプリケーションズ 執行役員 OXYG本部 本部長 中井 陽一郎 氏

「AIの賢さが理解されるにつれ、潮目は変わってきている。これからは基本AIが業務を行い、判断しきれないイレギュラーだけを人間が補完する」。そう話すのは、国産ERPパッケージ「HUE(ヒュー)」を率いるワークスアプリケーションズの執行役員・中井 陽一郎氏だ。

HUEは500企業グループ2,400社に導入されている。年商1,000億円以上の企業セグメントではシェア1位(ITR調査)を誇る※1、国産ERPの雄だ。6,700以上の標準機能で大手企業の機能要件の97%を吸収する独自モデルを貫いてきた。ノーカスタマイズという設計思想が、ノーカスタマイズなクリーンデータ基盤として再評価されつつある。AIが業務の主役になる時代に、ERPは何を担い、人間には何が残るのか――中井氏が描く基幹業務の未来像を聞いた。

「作業を創造に変える」――HUEが貫いてきた設計思想

ワークスアプリケーションズの企業理念は「作業を創造に変えて、仕事を楽しくする」。バックオフィスにつきまとう定型作業から人間を解放し、創造的な業務へ振り向ける――AI活用は、その理念の実現に欠かせない手段と位置づけてきた。

その理念を体現するのが、主力ERPパッケージ「HUE」だ。設計思想を中井氏はこう示す。「さまざまなお客さまで必要になった要件を標準機能に吸収して成長してきた。アドオンやカスタマイズなしでお使いいただけるのが特徴だ」。一般的なERPパッケージが個社の業務に合わせるカスタマイズを前提にしてきたのに対し、HUEは大手企業が持ち込む要件を標準機能の側に取り込んできた

その蓄積が、6,700以上の標準機能というラインナップを生んでいる。「機能要件のRFPをいただくが、直近1年でも97%は標準機能で対応できる状態になっている」(中井氏)

導入実績は業種を問わない。中心は製造業だが、JR九州(運輸)や熊谷組(建設)といったといった大手企業が顧客に並ぶ。「日本の大手企業であればどの業種でも使っていただけるイメージ」

もう一つの柱が、同社が「無償バージョンアップ」と呼ぶモデルだ。保守料の範囲で、新たな標準機能を順次追加する。AI機能も例外ではない。リリースされるたびに、ユーザーは追加費用なく利用できる。

ノーカスタマイズで統一された業務・データ基盤こそが、AI活用の前提になる。

インタビューに答える中井氏

「カスタマイズしたシステムでは、AIの適用が困難になる」――業務に溶け込むHUEのAI

「いざAIを使おうとしたとき、個別のアドオンやカスタマイズを重ねたシステムだと、データが分断されて構造が複雑になる。AIの適用が困難になってしまう」。中井氏はHUEの優位性をこう説明する。標準機能のみで構成されているため、業務データはクリーンな状態で蓄積される。これがそのままAI活用のデータ基盤として機能する。

その基盤の上で、HUEはすでに複数のAI機能を業務に組み込んできた。

一つの例が、固定資産の耐用年数判定だ。経験とノウハウに依存しやすく、属人化が起きやすい領域でもある。HUEでは資産名称や登録データから内蔵AIが耐用年数を推定する。

入金消込もある。債権データと取引先からの入金データを突合する作業は、銀行手数料や端数の扱いが絡む複雑なパズルだ。HUEのAIは、どの債権に該当する入金かをサジェストする。

経費精算の承認アシストでは、申請内容の整合性を業務ルールや会計ロジックに照らして判定する。承認か差し戻しか、その判断を支援する仕組みだ。2026年7月からは、一次承認をAIが自動で行う機能の提供も予定する。「多段階の承認行為があるとき、一次承認はAIがやってしまって、判断しきれないイレギュラーなものだけが人間に回ってくる」(中井氏)。

分析系では、勘定科目ごとの昨年対比をAIが自動で抽出する機能を備える。Microsoft 365 Copilotとの連携機能「HUEエージェント」も実装済みで、Copilotから自然言語でHUE内のデータを抽出したり、メール文面を作成したりできる。

業務機能の中にAIを組み込むことが、汎用AIとの差別化を生んでいる。汎用的な生成AIにERP業務の支援を任せる場合、勘定科目の意味や承認慣行といった業務ナレッジを都度プロンプトで補わなければならない。HUEはその業務知識を機能の側にあらかじめ織り込んでいる。データとロジックが分散した環境では、汎用AIをいくら賢くしても業務には溶け込まない。

HUEのAI機能について語る中井氏

「定型業務から人を解放する」――HUEとArielが描く統合基盤

経費精算の一次承認自動化は通過点にすぎない。中井氏の視線はその先を向いている。「人間が判断したことがナレッジとして蓄積されていけば、次のフェーズはもう人間がやる業務自体が消滅する。さらにイレギュラー対応もAIがやってくれるようになる」

もっとも、そこに至るには手前で乗り越えるべきものがある。AIの判断根拠を人間が理解できる形で示せるか、だ。「監査法人など外部への説明責任もある。それを果たせるかが、業務に根付くための条件になる」(中井氏)

ここで効いてくるのが、長年の業務データとロジックの蓄積だ。多くの日本企業が業務を回してきた実績そのものが、構造化された業務知識として蓄積され、AI活用の土台になっている。

ただ、すべての業務がHUEだけで完結するわけではない。HUE以外のERP、SaaS、ファイルサーバ――大企業の社内には複数のシステムが点在している。それらを束ねるためのプロダクトが、もう一つの主力「Ariel AirOne」(アリエル エアワン)だ。

Arielは、グループウェア、ワークフロー、ローコード開発の基盤を一体で備える統合プラットフォームだ。HUEを含む各種システムとデータを連携・同期する。データレイクとしての役割と、企業に欠かせないアクセス制御を兼ね備える。

背景には、企業の中で広がる手詰まり感がある。「部門単位ではPoCが立ち上がるが、ユースケースが小粒で全社的なインパクトが薄い。そこに皆さん気づき始めている」(中井氏)。部門を横断するエンドツーエンドのAI活用に進むには、システムとデータの統合が前提になる。

将来的には、外部のAIエージェントからMCP経由でArielにアクセスし、内部データを直接読み取る仕組みも視野に入る。データ統合、システム連携、ローコードアプリ開発をワンパッケージで届ける――同社はそこを、他社の個別ツールに対する独自性と位置付ける。

統合基盤について語る中井氏

AI時代こそ、「前提を疑う」

6月のAI要件定義サミットで、中井氏が伝えたいのは、「前提を疑う」という視点だ。

「アンテナの高い方々は、AI活用をすでに進めている。ただ、自分たちの業務をベースに考えると、人間が業務を行うことや、既存のやり方を前提にしてしまいがちだ」と中井氏は語る。日常の改善活動を積み重ねるだけではなく、前提そのものを見直す視点を持ち帰ってほしいという。

その考え方は、HUEがこれまで発信し続けてきたメッセージとも重なる。「日本企業はカスタマイズを強みにしてきたが、そもそもカスタマイズを不要にしてしまうという発想もある」。標準機能に業務を合わせるという思想で、ERPの常識を問い直してきた。

AIに任せられる範囲が広がっても、人間にしか担えない領域は残る。AIは過去の学習データをもとに、確率的に正しいとされる選択肢を導き出す。だが「みんながそうするなら、我々は逆をいく」という意思決定はAIには難しい――人間だからこそできるものだと中井氏は考える。前例なき挑戦や逆張りの判断こそ、AI時代に人間が向き合う「面白い領域」だ。

前提が変われば、何ができるか――中井氏はサミットで、その視点を、参加者に持ち帰ってもらいたいと考えている。


※1 出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2026」 会計業務ERP市場:年商1,000億~5,000億円未満企業/5,000億円以上企業 ベンダー別売上金額シェア(2025年度予測)